
Mueang Chiang Mai郡

現代西洋医学はScience、すなわち経験事実(empiricism)を出発点とし、帰納・演繹的推論によって普遍妥当性と再現性を確保しようとする学問体系で、要素還元主義の立場から人体を分析し、正常値と異常値の差異を操作することで健康の再現を目指す点にその成立基盤がある。これに対し、いわゆる伝承医学(東洋医学)は、異なるカテゴリーに属する。伝承医学は「一般化された人間」でなく、試不能な「人間体験の一回性・各自性」を重視するからだ。
つまり西洋医学が「サイエンス」を土台とするなら伝承医学は「ヒューマニティ」を土台とする医療観と言える。
このように、伝承医学は科学的認識論のサイエンスではないので、人間を「生物種としての人間(一次性質)」としてではなく、心身の傾向、体質、気質といった個別的・偶有的な二次性質をもつ存在としての人を看る。
一次性質としての物質的・生物的「人間」は皆同一ですが、二次性質としての「人」は個々に異なるからです。生物中の一類としての「人間」ではなく、個別的「人(存在、行為、思考、あるいは性質、状態などの主体としての個人)」を看る。
万人に共通する正常値から健康を定義し、逸脱を是正するという立場を取らないのはそうした理由からで、この思想は中医学の『随証』という概念を通し実践化される。
随証とは個別の性質・体質に従う‥という意味で、ここから随証治療、弁証論治、方証相対が導かれ、病名以前に各々異なるであろう「固有状態」から処置方針が決定される事となる。身近なところでは、漢方の「しばり表現」などへ端的に顕れる。
他方、現代の医療は病名治療と呼ばれ、「病名」から処置が決定される事となる。例えば医師が患者の抱える不全を診る場合、その判断は解剖学的見地に立脚する。
臓器や組織など人体器官の異常や数値に原因を求め(症状と病名を診断し)異常を正常値に戻すことで治癒や根治、あるいは寛解を目指す還元主義的操作が現代医療(いわゆる標準治療)と言われるのである。
しかしながら、後掲するWHO健康定義が示すように、「病気ではないという判断」と「健康」は必ずしもイコールで繋がらない。人体器官に異常は認められないのに体が痛む。数値も正常だ。(これを不定愁訴と呼ぶ。)
ではなぜ体が痛むのか。
痛みが続くのか。
そもそも健康とは何なのか。
この辺りを補完し、西洋医学に不足しがちな個人個別の治癒系を満足させる健康アプローチを伝承医学というのである。
思想で言い表すと上工治未病、中工治已病。治已病では遅いのだと考える。
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伝承医学とは、応用生物学など現代科学理論に基づく実証的因果関係や高度に有意な相関性を主張するものではありません。
人の生命身体を部品の集合とは考えませんし、遺伝子情報というプログラムで稼働する機械とも考えないからです。
伝承医学とは、長い歴史の中で受け継がれてきた‥それは臨床体験(帰納的経験)の束から有用性の認められた‥健康の為の知識や経験を、現代に生きる人々へ受け渡してゆく文化的営為に他ならないのです。

※タイ古式マッサージは
ユネスコ無形文化遺産です。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2019年12月12日、コロンビアで開かれた政府間委員会で、タイ古式マッサージを無形文化遺産に登録することを決めた。「芸術と科学、文化を兼ね備えた伝統医療」と評価している。
YouTuberより引用
https://youtu.be/GgpQZhOiGo4
そもそもどの範囲を医療と見なすかについてはいくつもの立場がある。医療社会学を専門とする黒田浩一郎は「生物医学的な根拠にのっとった近代医療のみを医療と見なす」という立場と、多元的医療システム観に基づき「その社会の一定程度の人に支持された、形式化された〈病・治療・健康〉をめぐる社会的文化的行為」とする立場に大きくわかれていると述べた。
【医療】Wikipedia
世界保健機関は2000年に「伝統医療の研究・評価の方法論の一般的ガイドライン(General Guidelines for Methodologies on Research and Evaluation of Traditional Medicine)において、補完・代替医療を「該当国の伝統に基づいており、かつ主流の医療制度に統合されていない医療技法」と定義している。
【代替医療】Wikipedia
健康とは、病気でない、あるいは病んでいない、と言うだけでなく、「肉体的・精神的・社会的」に全てが満たされている状態(well-being)を言います。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
【健康】WHO世界保健機関
https://www.who.int/about/who-we-are/constitution
一定の対象を独自の目的・方法で体系的に研究する学問。(中略)同じ条件を満足する幾つかの例から帰納した普遍妥当な知識の積み重ねから成る。
【科学】新明解国語辞典
考察・研究している対象の中に階層構造を見つけ出し、上位階層において成立する基本法則や基本概念が、「いつでも必ずそれより一つ下位の法則と概念で書き換えが可能」としてしまう考え方のこと。
複雑な物事でも、それを構成する要素に分解し、それらの個別(一部)の要素だけを理解すれば、元の複雑な物事全体の性質や振る舞いもすべて理解できるはずだ、と想定する考え方。
【還元主義】Wikipedia
還元主義の採用される現代西洋医学(いわゆる標準医療)はこんな感じになります。
記事タイトル∶人工血液、動物実験に成功:1年以上の常温保存も可能
引用元:朝日新聞
2019年9月11日09時00分配信
※以上は「伝承伝統」に立つ際の基礎的理解であって、ヒューマニティは反科学を標榜する概念ではありません。あくまで人間理解への起点・視座の違いであって、両者は対抗関係でない事に御留意ください。