いわゆるリラクゼーション業界における争点の一つに「無資格者問題」がある。
我が国においては医業類似行為としての「マッサージ」を業として行える者は「※あはき法」に規定される免許者に限定されるからだ。
※あはき法から除外される柔道整復師や鍼灸師の国家資格を用いた治療と称するマッサージも当然に違法であるが、国家資格である事を隠れ蓑にみずから治療家などと称し症状改善を謳い施術するケースも少なくない。たとえば柔道整復師が行える医業類似行為は「骨折、挫傷、脱臼、打撲、捻挫」に限られる。また骨折と脱臼の施術をする場合は緊急の場合を除いて医師の同意が必要になる。しかし何れにせよ、あはき法の認めるマッサージであっても医業類似行為にすぎず、標準治療(通常医療)でない点を忘れてはいけない。
本邦において、医療行為たる標準治療(通常医療)を執り行う資格は医師のみが有するのだから。
では、巷よく見かけるリラクゼーションマッサージ店は如何なる根拠で施術を行っているのであろうか。本邦において、医療行為たる標準治療(通常医療)を執り行う資格は医師のみが有するのだから。
ここで国会における議論を見てみよう。
平成16年11月04日
004/004 161
参 - 厚生労働委員会 - 2号
社会保障及び労働問題等に関する調査 無資格者対策
質問人
足立信也 民主党参議院議員
回答者
岩尾總一郎 厚生労働省医政局長
西博義 厚生労働副大臣
Q:次に、続きまして、あんま、マッサージ、指圧、医業類似行為についてです。
あんま、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復、カイロプラクティック、整体や足裏マッサージなどの医療の周辺産業です。
なぜ今回このような質問をするかといいますと、一つには医療の現場で、病院を受診する前にこういった業者に行き、麻痺や神経障害、骨折を起こす患者さんがいるということです。
もう一つは、私の地元の県議会の方から、医業に類似する行為について明確な基準がないので取り締まれないという要望があるからです。
まず、医業に類似する行為について、判例や厚生労働省の通知に基づいて私が解釈していることを述べます。
医業に類似する行為には、法で認められた医業類似行為と、法に規定されていない医業類似行為があって、法で認められた医業類似行為には、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律、略称があはき法です、に基づくあん摩マッサージ指圧、はり、きゅうと、柔道整復師法に基づく柔道整復があります。
もう一つ次に、法に規定されない医業類似行為については、人の健康に害を及ぼすおそれのある業務に限局して禁止処罰の対象になる、このように解釈しておるんですが、これでよろしいでしょうか。
A:よろしいかと思います。あはき法は、一条において、医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうを業とする者は、それぞれの免許を受けなきゃならないと規定しておりますし、柔道整復師法は十五条において、医師である場合を除き、柔整師でなければ、業としてその柔整を行っちゃならないということを規定しております。
それから、今のあん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔整以外の医業類似行為についても、あはき法の十二条では禁止されておりますが、ここで禁止されているのは、先生おっしゃったように、人の健康に害を及ぼすおそれのある行為に限られているということでございます。
Q:今の答弁で、あはき法の第十二条に、何人も、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう以外、医業類似行為を業としてはならないという条文があるけれども、最高裁の判決で、人の健康に害を及ぼすおそれがない場合は職業選択の自由があるのでよろしいということだと思います。
それでよろしいかどうか。あわせて、あはき法違反者、先ほどの法の違反者に対して実際にどのように規制を行っているか、その点について教えてください。
A:昭和三十五年の一月に最高裁の判決が出て、この十二条の禁止というのは、人の健康に害を及ぼすおそれのある行為ということで限られました。

上掲した質疑にあるように、無資格者に禁止されるのは「法に規定される医業類似行為としてのマッサージ等」及び「法に規定されない医業類似行為」のうち「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」としての施術である。
「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない。」と最高裁が述べているとおりだ。
考えてみれば当然だが、医師でもなく針師でもない者が、人体へ針を打ってよいわけがない。
では純粋なリラクゼーション、つまり病的状態の除去又は疲労の回復という生理的効果の実現を目的とせず、また下掲するような強圧を伴わない、(通称)いわゆるマッサージは、人の健康に害を及ぼすおそれのある行為なのだろうか。
そうではないと思う。
平成21年11月職業分類改定に伴い「リラクゼーションセラピスト」が日本標準職業分類(分類コード429)に追加され、平成25年10月30日には総務省が「リラクゼーション業」を日本標準産業分類(分類コード7893)に新設した。
リラクゼーション業 定義手技を用いて心身の緊張を弛緩させるための施術を行う事業所をいう
最後に、医政医発第1118001号の疑義照会における厚生労働省の見解を確認しておこう。
弊ブログが紹介するタイ古式マッサージも(タイ本国においては伝統医学ではあるが)我が国においてはリラクゼーションの範疇であり、「人の健康に害を及ぼすおそれのない行為」としてのタイ民間療法(補完的健康アプローチ)を文化的側面からお伝えするものである。
施術者の体重をかけて対象者が痛みを感じるほどの相当程度の強さをもって行うなど、あん摩マッサージ指圧師が行わなければ人体に危害を及ぼす、又は及ぼすおそれのある行為については同条のあん摩マッサージ指圧に該当する。
また名称については文化的固有名詞として「タイ古式マッサージ」の呼称を尊重し用いるものである。
厚生省告示
仏歴2544年(2001年)
タイ方医事の一部として
タイ式マッサージ追加に関して
昨今、マッサージは広く普及し、症状軽減に関する科学の1つとみなされている。
しかし、いまだに法律上の規定がなく、実務において学術的規定に沿っている場合も、人々に危険な場合もあるなど、様々なことが起きている。
それ故に、2542年(1999年)発令の医療業務従事に関する法律の第5条(1)、第7条、第13条(2)に基づく権限により、厚生省担当大臣は医療業務従事委員会の推奨に基づいて、タイ方医事部への分類“タイ式マッサージ”の追加規定を、以下のように告示する。
項1)タイ式マッサージとは
診察、診断、症状軽減、病気予防、健康増進及びリハビリテーションを、押す、動かして押す、もむ、つかむ、ストレッチする、引っ張る、ハーブボールを当てる、ハーブサウナに入れる、又はマッサージ技術に従ったその他の方法で、或いは、薬事法に基づいたサムンプライの使用など、これら全てをタイ方医事の正規手順に基づいて行うことである。
(後略)
発行日 2544年(2001年)2月1日
コン・タッパラングスィー
厚生大臣
当該論争の答えは結局のところ「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない。」とする最高裁判断と、リラクゼーションを包括指定して規制するのではなく「個別の具体的業務様態から総合的に判断される。」と回答した厚生労働省見解がすべてだろう。