一言:ひろゆき氏の語句選択はまぁまぁ妥当です。
昨今流行りのマジックワード「論破」の類似語に「ファクトチェック」がある。共通項は‥前者は胡散臭いワード一位だ。
というのも、大抵は前提aから立論される理論xを用いて(異なる前提bから立論される)理論yを非難する形式に終始したargumenだから。論破!と言いつつ‥
これは討議の成立し難い構造であることに加えて(前提を違える)議論は相手を捩伏せる為にするものでなく合意を目指す為の技術であるから論破なる勝利宣言語は現状議論もどきを彩るネット言論戦士の自己満具としか機能してない。
Twitterの主張合戦とかね。
「正しさ・正義・善悪」の実在を信仰(前提の絶対性は共有されてるはず、されるべき幻想)する人だったり相対主義を目の敵にする人はこうなりがち。
異なる前提つまり相手の立場は眼中にない。蛇足になるけれど、直近の事象で検証すると、ウクライナ問題で善悪・正義といった(事実表現でない観念)表現を使う人であったり相対主義を棄却する人(いずれも当事者でなく日本人)の中で、有意な議論を異見者と成立させようと心を砕いた人、どれ位いましたか。
こういう#タグ、Twitterで横行跋扈してましたよね。
絶対的正しさを纏う言葉から妥協は現れづらいので、議論じゃなく言葉で異見者を斬り付ける争論・論詰に着地しがち。いや主張を譲らず押し通す議論不要の場もあるべきですよ。
裁判所とかね。
他方、議論は相手を捩伏せる為の場じゃない。相手(異なる前提を持つ他者)をも活かす、共存を模索する技術です。
それは愚劣な価値観だが私は寛容ゆえ認めよう。こんな不寛容な社会設計を憲法が求めてるとは思えない。
高が人間にそういった傲慢なジャッジメントを委ねた前時代的発想から解放(教条主義的イデオロギー化阻止)する思想を実定化したものが憲法なのだと思うな。
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他者の前提が自明に否定される場で議論は生まれませんよ。沖縄基地問題も同様。基地擁護派の論理といわゆる基地反対運動は前提を違えるはず。
日米安保(降伏条件)を所与の前提とする限り、またこれへ同意する限り、この立ち位置から基地問題を前進(例えば県外移設)させることは論理的無理がある。
無論のこと、上は一つの例にすぎない。温度差は県民それぞれあるにせよ、沖縄基地問題は自分達の「nation」その在り方を巡る問題、「nation」とは何か、主権とは、民族自決とは‥これらを問う厳粛にして根幹の問題なんじゃないか。
しかしそれはそれとして、次のような記事を目にすると、ファクトチェックという言葉も(同様に)厄介な言葉と思えてきた。
ひろゆき氏「名護市で基地容認派の市長が勝ってる」は誤り:渡具知氏は賛否を明言せず【ファクトチェック】
渡具知市長は18年と今年の2回の市長選で、国と県の係争を「注視する」「見守る」と公約して当選した。
引用元:沖縄タイムス
2022年10月7日 06:06
なぜならこの問題、争点は事実の有無じゃなく言葉の真意を巡る解釈になるからだ。
同記事は西村博之氏の発言中「基地容認派の市長が勝ってる。」を取り上げ“容認”は事実でない、市長は賛成反対に触れてないぞ、と言ってる文章。
単純に字面の違いを指摘する限り正しい。字面上、市長の発言から“容認”という言葉は見つからない。他方、西村博之氏は市長を“賛成派”とも市長は“是認”したとも言ってないのである。
ここで(関連記事としてリンクされてる)過去記事を確認してみよう。同問題に対する市長の心象風景、葛藤が浮かび上がる。
辺野古「係争を見守る」名護市長選、現職の渡具知氏が政策発表渡具知氏は米軍基地の段階的な整理縮小を強く求めつつも、一方で日米同盟は“極めて”重要と「重要」を大小の最大限である「極めて」で修飾し日本の安全保障政策へ深く強い理解を示しており、辺野古新基地建設についても「国と県による係争が決着を見るまではこれを見守る」と言明している。
基地問題について「日米同盟は極めて重要だが、過重な基地負担の軽減は県民共通の願い。日米両政府に地位協定の改定と米軍基地の段階的な整理縮小を強く求める」と述べた。
引用元:沖縄タイムス
2021年12月12日 08:52
そうすると、前掲した記事によるところの2022年度公約「注視、見守る」についても当時の意を継いで解釈するのが自然だろう。一般論、市は国や県と従属関係になく上下関係のない独立した行政主体だから、現下の状況を容認できないならば(国と県が係争中とはいえ)注視したり見守ったり事態の確定を敢えて待つ必要はないと考えられる。
【容認】新明解国語辞典思想の芯として反対だが急場やむを得ず理由あり大目に見る。
〔本来認めてはならないことを〕それでよいと△許す(大目に見る)こと。「—しがたい」
【認:解字】新漢語林
形声。言+忍。音符の忍は、こらえるの意味。自分の感情などを表面に出さず、相手の発言にこらえる、みとめるの意味を表す。
この「本来認めてはならない」から出発する耐え忍ぶ葛藤こそが、(賛成でもなく是認でもない)容認概念の眼目であり異見者の慮るところである。
にもかかわらず公共言論マスメディアがそう解釈する余地を誤りとすると、その思考だと市長発言はこう(見守る∧¬容認)なるから整合性を質すほうへ熱量を向けたほうが建設的な気はする。ひろゆき氏にじゃなく。
今回のファクトチェックは市長発言を(矛盾とまでは言えないまでも)わかりづらいものにした。
両者の字面だけを見比べて、「そんな事言ってないじゃん!はいファクトチェック!」とか記者はそっちのが重要なのか。
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しかしそれもそれとして、沖縄は沖縄の前提を語ればよいのに。そんな保守政治家はもう出てこないのかな。沖縄の前提を保守する政治家。本土が暗に要求する苛烈な前提に合わせることの理非へ真っ向対峙する者が存在するならば、私の心情はそちら側に寄るでしょう。
自決前、大田中将が海軍次官にあてた電文(全文)大戦を生き残った日本人の裔として、この赤心から出た遺言を私は生涯忘れまい。
沖縄県民斯ク戦ヘリ。
県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ。
引用元:朝日新聞
2021/8/11 12:00